大阪地方裁判所 平成10年(ワ)7546号 判決 1999年11月02日
原告
中井新八
ほか一名
被告
奈良聡介
主文
一 被告は、原告中井新八に対し、金一六一七万八三九六円及びこれに対する平成九年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告中井久美に対し、金一六一七万八三九六円及びこれに対する平成九年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告中井新八に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告中井久美に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告運転の普通乗用自動車が道路を横断中の中井祐樹に衝突し、同人が死亡した事故につき、同人の相続人(父母)である原告らが、被告に対し、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)
1 事故の発生
左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成九年一二月一三日午後二時一三分頃
場所 大阪市東淀川区豊里二丁目一七番一八号先路上(以下「本件事故現場」という。)
事故車両 普通乗用自動車(神戸三四ふ一六八五)(以下「被告車両」という。)
右運転者 被告
歩行者 中井祐樹(以下「祐樹」という。)
態様 被告車両が道路を横断中の祐樹に衝突した。
2 被告の責任原因
被告は、本件事故当時、被告車両を自己のために運行の用に供していたものである(弁論の全趣旨)。
3 祐樹の死亡及び相続(甲八)
(一) 祐樹は、本件事故により、平成九年一二月一三日、死亡した。
(二) 祐樹の死亡当時、原告らはその父母であった。
二 争点
1 本件事故の態様(免責、過失相殺)
(被告の主張)
本件事故は、祐樹が北行車線に停止している車両の間を走って横断して反対車線(南行車線)に出たところ、ちょうど現場にさしかかった被告車両と衝突したというものである。現場の道路は、交通量も多く幹線道路に準ずる道路といえ、中央線は黄色実線が引かれている。被告は制限速度を遵守して走行していた。
被告には回避可能性がなく、何ら過失はない。また、本件事故当時、被告車両には構造上の欠陥または機能の障害もない。したがって、自賠法上も免責されるものである。
仮に免責まで認められないとしても、祐樹には少なくとも五割の過失がある。
(原告らの主張)
祐樹(本件事故当時八歳)は、北行車線側で立ち止まり南行車線を走行する車両の動静をよく確認していたはずである。南行車線を走行していた被告車両は、中央線をはみ出し、北行車線内の祐樹に衝突したものである。なお、現場の道路は幹線道路ではないし、その付近は、住宅地であり、同じ豊里二丁目内には幼稚園もある。
被告には、前方注視義務、徐行義務、横断歩行者優先義務、通行区分遵守義務といった幾重にも重なる義務に違反した過失がある。祐樹には全く落ち度はない。
2 損害額
(原告らの主張)
(一) 治療費 二一万七〇九〇円
(二) 逸失利益 二三九二万五三〇〇円
基礎収入 年額二四四万四六〇〇円(平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子一八歳ないし一九歳)
生活費控除率 五〇パーセント
新ホフマン係数 一九・五七四
(三) 死亡慰謝料 二二〇〇万円
(四) 葬儀費用 三〇〇万円
葬儀費用が三〇〇万円であることは、原告らと被告との間で合意済みのものである。
(五) 弁護士費用 四〇〇万円
よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、右合計額の二分の一の内金二五〇〇万円及びこれに対する本件事故日である平成一二月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
不知ないし争う。
逸失利益については、祐樹の死亡時の年齢が八歳である以上、新ホフマン係数は一九・一六〇のはずである。
死亡慰謝料、葬儀費用は高額にすぎる。葬儀費用が三〇〇万円であると合意したことはない。
3 損害の填補
(被告の主張)
被告は、原告らに対し、本件事故に関し、損害内金として三〇〇万円を支払った。
(原告らの主張)
被告は、原告らに対し、本件事故に関し、葬儀費用として三〇〇万円を支払ったものである。
第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)
一 争点1について(本件事故の態様)
1 前記争いのない事実、証拠(甲二ないし四、乙一、二、三1、2、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
本件事故現場は、大阪市東淀川区豊里二丁目一七番一八号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場を通る道路(以下「本件道路」という。)は、片側一車線(各車線の幅員は約四・〇メートル)の道路であり、各車線の脇には歩道が設置されていた。本件道路の制限速度は時速三〇キロメートルに規制されていた。本件道路の交通量は、比較的頻繁であるが、本件事故現場付近は、住宅の並ぶ市街地を形成しており、事故現場北西方向には公園も設置されていた。
被告は、平成九年一二月一三日午後二時一三分頃、被告車両を運転して本件道路の南行車線を北から南に向かって時速三〇キロメートル程度で走行していた。本件道路の北行車線は、信号待ちの車両で渋滞していた。被告は、別紙図面<1>地点で前方の駐車車両
を認めてやや減速し、同図面<2>地点を走行している時、停止中の同図面の車両と同図面甲の車両との間を走り出てきた祐樹(同図面<ア>地点)に気付き、急制動する間もなく、同図面<3>地点において同図面<イ>地点の祐樹に衝突し、祐樹を同図面<ウ>地点に転倒させ、同図面<4>地点に停車した。本件事故後の実況見分において、被告車両の右側部から〇・四五メートル、地上高〇・八三メートルまでの右前部バンパー及びバンパーガードに払拭痕、方向指示器レンズ破損が認められた。
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定にかかる本件事故現場の状況によれば、本件事故現場付近では子供等が停止車両の間を通って横断することが予想されるから、被告は、本件道路を走行するにあたり、進路前方側方を注視すべき義務があったというべきであり、それにもかかわらず、右注意義務を怠ったまま漫然と進行した過失のために本件事故が起きたものであると認められる。しかしながら、他面において、祐樹としても、その年齢(事故当時八才)を考慮に入れても、停車車両の間を通って比較的交通量の多い本件道路に走り出る行為がかなりの危険を伴うということは容易に認識しうるから、本件道路を横断しようとする以上は進行してくる車両の有無・動静につき相当の注意を払うべきであるところ、前記事故態様によれば祐樹にもこの点について注意を欠くところがあったといわざるを得ない。したがって、本件に関する一切の事情を斟酌し、二割五分の過失相殺を行うのが相当である。
二 争点2について(損害額)
1 損害額(過失相殺前)
(一) 治療費 二一万七〇九〇円
祐樹の治療費として二一万七〇九〇円を要したものと認められる(甲七)。
(二) 逸失利益 二三九二万五三〇〇円
証拠(甲七)及び弁論の全趣旨によれば、祐樹(昭和六三年一二月一四日生)は、本件事故当時八才(但し、本件事故の翌日には九才になるはずであった。)の男子であったことが認められる。祐樹は、本件事故に遭わなければ、本件事故の九年後から四九年間稼働することができたと認められるから、原告らの主張する平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子労働者(一八歳ないし一九歳)の平均賃金である年額二四四万四六〇〇円(右平均賃金が年額二四四万四六〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基礎とし、生活費控除率を五割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右稼働期間内の逸失利益の現価を算出すると、二三九二万五三〇〇円となる。
(計算式) 2,444,600×(1-0.5)×(26.852-7.278)=23,925,300(一円未満切捨て)
(三) 死亡慰謝料 二〇〇〇万円
本件事故の態様、祐樹の年齢、祐樹と原告らとの関係、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、祐樹の死亡に基づく慰謝料としては、原告ら固有の分も含め、合計二〇〇〇万円とするのが相当である。
(四) 葬儀費用 一〇〇万円
葬儀費用については一〇〇万円の限度で本件事故と相当因果関係があるものと認められる。原告らは、葬儀費用が三〇〇万円であることは、当事者間で合意済みであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
2 損害額(過失相殺後)
右1に掲げた損害額の合計は四五一四万二三九〇円であるところ、前記の次第で二割五分の過失相殺を行うと三三八五万六七九二円(一円未満切捨て)となる。
三 争点3について(損害の填補)
被告は、原告らに対し、本件事故に関し、損害内金として三〇〇万円を支払ったものと認められる(被告本人)。
四 損害額(損害の填補後)
1 損害額(損害の填補分控除後)
本件交通事故に関する既払金は三〇〇万円であるから、前記過失相殺後の損害額三三八五万六七九二円からこれを控除すると、残額は三〇八五万六七九二円となる。
2 相続
以上のとおり、祐樹の損害賠償請求権(元本)の額は三〇八五万六七九二円となるところ、これを原告らが各二分の一の割合(各一五四二万八三九六円)で承継したことになる。
3 弁護士費用 合計一五〇万円
本件事故の態様、本件訴訟にいたる経過、本件訴訟の審理経過、認容額等の諸事情を考慮して本件訴訟に要する弁護士の労力を考えると、被告に負担させるべき弁護士費用は各原告につき七五万円をもって相当と認める。
五 結論
以上の次第で、各原告の請求は、被告に対して一六一七万八三九六円及びこれに対する本件事故日である平成九年一二月一三日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面